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東京高等裁判所 昭和26年(う)5319号 判決 1953年9月28日

控訴人 原審弁護人 伊藤五郎 外一名

被告人 山木正枝 外八名

検察官 軽部武 鯉沼昌三 上田次郎

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

当審の訴訟費用のうち、証人小野田茂、同黒沢五助、同金子貢に各支給した分は被告人山木正枝の負担とし、証人佐藤万蔵に支給した分は被告人高橋金蔵の負担とし、証人志賀三十郎に支給した分は被告人山村富士雄の負担とし、証人高橋吉太郎に支給した分は被告人山本正枝、同八巻幸雄の連帯負担とし、証人佐藤英夫に支給した分は被告人山木正枝、同八巻幸雄、同高橋金蔵、同山村富士雄の連帯負担とし、国選弁護人藤田貢に支給した分は被告人武田金三郎の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添付した被告人山木正枝、同八巻幸雄、同高橋金蔵、同山村富士雄の弁護人伊藤五郎、被告人武田金三郎の弁護人藤田貢及び原審検察官宮本彦仙がそれぞれ差し出した各控訴趣意のとおりである。

伊藤弁護人の控訴趣意第一の(二)について。

本件訴訟記録によれば、本件についてはいずれも横浜地方裁判所に対し、昭和二十四年十月七日付をもつて被告人山木正枝に対する同裁判所昭和二十四年(公)第一、三一一号事件及び被告人武田金三郎に対する同裁判所同年(公)第一、三一二号事件につきそれぞれ公訴が提起され、次いで同月二十九日附をもつて被告人八巻幸雄、同高橋金蔵、同山村富士雄に対する同裁判所同年(公)第一、四一八号事件につき公訴が提起され、更に同年十一月二十八日附をもつて本件被告人ら九名に対する同裁判所同年(公)第一、五六二号事件につき公訴が提起されたところ被告人山木正枝に対する横浜地方裁判所昭和二十四年(公)第一、三一一号事件については、原審第一、二回公判はいずれも単独制で開廷(いずれも公判期日が変更されただけ。)されたが原審第三回公判は合議制で開廷され、右事件を同裁判所同年(公)第一、五六二号事件に併合する旨の決定がなされ、横浜地方裁判所昭和二十四年(公)第一、三一二号事件については、原審第一乃至第三回公判はいずれも単独制で開廷(いずれも公判期日が変更されただけ。)されたが、原審第四乃至第六回公判は合議制で開廷(いずれも公判期日が変更されただけ。)され、次いで原審第七回公判は単独制で開廷され、右事件を同裁判所同年(公)第一、五六二号事件に併合する旨の決定がなされ、横浜地方裁判所昭和二十四年(公)第一、四一八号事件については原審第一回公判は単独制で開廷(公判期日が変更されただけ。)されたが、原審第二回公判は合議制で開廷され、被告人八巻幸雄、同山村富士雄に対する事件を分離し、被告人高橋金蔵に対する事件を同裁判所同年(公)第一五六二号事件に併合する旨の決定がなされ、なお分離せられた右被告人八巻幸雄、同山村富士雄に対する事件についての原審第三回公判は単独制で開廷され、右事件を同裁判所同年(公)第一、五六二号事件に併合する旨の決定がなされ、横浜地方裁判所昭和二十四年(公)第一、五六二号事件については、原審第一乃至第五回公判は合議制で開廷(第一回公判においては審理が行われ、又第三回公判においては、被告人八巻幸雄、同山村富士雄、同武田金三郎に対する事件を分離し、被告人山木正枝に対する同裁判所同年(公)第一、三一一号事件及び被告人高橋金蔵に対する同裁判所同年(公)第一、四一八号事件を併合した上で審理が行われたが、第二回及び第四回、五回公判は公判期日が変更されただけ。)されたが、原審第六回公判は単独制で開廷され、分離せられた被告人八巻幸雄、同山村富士雄、同武田金三郎に対する事件を併合するとともに被告人八巻幸雄、同山村富士雄に対する同裁判所同年(公)第一、四一八号事件及び被告人武田金三郎に対する同裁判所同年(公)第一三一二号事件をも併合した上で審理が行われ、その後は引き続き単独制で開廷され、審理の上判決がなされたことが明らかである。しかし、本件はもともと一人の裁判官が取り扱うことのできる種類の事件であつていわゆる法定合議事件に当るものではないから、一旦合議制で審理したものを途中から単独制に移して審理を続けさせたとしても、これをもつて、直ちに、右被告人らの公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害したものとすることができないばかりでなく、訴訟手続に法令の違背があつたとすることも当らない。もつとも本件においては、一旦は合議制で審理がなされたこと及びそれが途中から単独制に移されて審理が続けられたことについて、特にその旨の決定がなされた事跡は見当らないが、この場合の決定は合議体において事実上その旨の決定をすれば足り、必ずしも特に決定書を作成する必要はないものと解すべきところ、本件が、前記のように、事実上、一旦は合議制で審理がなされ、それが途中から単独制に移されて審理が続けられたのは合議体においてその旨の決定がなされたからにほかならないことが明らかであるから、この点についてもまた訴訟手続に法令の違背があつたとは認められない。従つて論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 河本文夫 判事 鈴木重光)

弁護人伊藤五郎の控訴趣意

第一、原判決は法令適用の誤りと訴訟手続に法令の違反があり、その違反が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れないものと信ずる。

(二) 記録八十九丁以下によると、第三回公判より第五回公判については、合議体で審理をなして居り第六回公判以下は単独裁判官による審判がなされ結審をなしているが、一度被告人等に慎重なる裁判を受け得る利益が与えられたにも不拘、これを変更するは実質的に被告人等にとつて不利益である。即ち、本件はその内容頗る複雑である為、一度単独裁判官より合議体にその審判権が移つたので被告人等も慎重に事案の真相を合議体裁判官がお汲取り、適正なる御審理を受けうるものと期待していたものであるが、右合議体は、一度被告人等に与えられたる審判権を剥奪し、(証拠調の申請迄為されたのに)再度、単独裁判官の審理に移したのは、被告人等の慎重公正なる裁判を受ける権利を侵害した違法がある。

よつて原審判決は以上の事由により違法であるから破棄を免れないものと信ずる。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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